1.土を考える
ぶどうの根の張りやすい環境を整える
都農の土質は、火山灰土壌の「黒ボク土」と言われる土です。この土は、排水性には優れているものの、ブドウが必要とする、カルシウムやマグネシウムなどのミネラル分が乏しい土壌です。都農ワイナリーの牧内農園では、地元の農家さんたちに習い、堆肥を使った土作りをしています。
土づくりは、積極的に堆肥を利用して土壌に団粒構造(顆粒状の土)をつくり、ぶどうの毛細根が張りやすい環境を整えます。それによって健全なぶどう樹木、ぶどう果実が得られるという考え方です。
一方 、従来の日本の栽培法では、堆肥は窒素分およびカリウムが過剰になるとして、積極的には使用しません。また栄養成長(実をつけず枝ばかり伸びる)に走るとして、根の成長を嫌います。私たちも数年、こうした栽培法を操り返してきました。しかし花芽(果実をつける芽)がつかない、腐敗果が多い、病気が多い、ひどいときはぶどうの樹木が枯れてしまうという経験をしてきました。そのころは『ぶどうはやせた土地でよく育つ』という定説を私たちも信じていたのです。
年に1度、冬の作業は土作り
この農法を採用するまでは、都農ワイナリーでも「房が大きくなれば肥料を止める」「葉が大きくなる、枝が徒長するのは窒素過多」と判断していました。しかし樹は弱ってくると樹勢を増します。葉が大きくなるのは、細胞内の養分までも使い切って膨張しているからなのです。それは土中の微生物が空腹であるという合図でもあります。またぶどうの根は地中深くまで伸びますが、栄養分を吸収する毛細根は地表から5~10cmのところに生えています。この部分に団粒構造ができていることが重要になります
団粒構造ができていると土はフカフカになり、空気の層ができるので水は地中へ浸透します。したがって雨量が多くても、玉割れも病気も起きにくくなります。団粒構造は1作で減少します。毎年、ブドウの休眠期に堆肥を使った土作りを行い、団粒構造を再構築していくことが必要です。土を健全にすれば、自然の摂理が全ての生き物を共生させてくれることを私たちは学んだのでした。
1.肥料散布2・3日後に菌糸が生えてくる。
2.菌糸が畑一面に広がっている様子。
3.土作りをしている所には、青々と元気な草が生えている。
はっきりと違いが分かる。
2.栽培品種を考える
世界に通じるワインづくりを志して
西空には尾鈴連山がリズミカルな曲線を描き、東には銀色に輝く日向灘。そして宮崎平野を一望する標高150mの高台・牧内台地に、私たちのワイナリーはあります。34haの広々とした敷地の一画および敷地周辺には、牧内農業生産組合が運営する専属農園があり、現在4.5haほどの畑で白ワイン用シャルドネ、ソービニヨン・ブラン、赤ワイン用シラー、ピノ・ノワール、マスカットベリーA、テンプラニーリョ、メルローを栽培しています。
シャルドネはシャブリなどブルゴーニュの偉大なる白ワインにも使われている最高級品種。酸味と甘みのバランスがよく、まろやかな口当たりで、熟成によってさらに特徴の出るぶどうです。香りが強く、切れ味のいい広がりがある辛口のワインを生み出すといわれます。また栽培適性が広く、土地の力をよく反映する品種として知られています。
一方赤ワインの専用種シラーは、フランスをはじめ、オーストラリアなどでも盛んに作られている品種で、深みのある色合い、スパイシーな香り、凝縮感のあるワインを産み出すといわれるぶどうです。そして、ピノ・ノワールは、世界中の醸造家を魅了する赤ワイン品種です。上品な香りとエレガントな味わいや長い余韻が楽しめます。また、メルローやテンプラニーリョなど、都農の気候風土に適した品種を模索しています。さらに、都農に自生しているヤマブドウの栽培にも挑戦しています。ヤマブドウの栽培性の可能性を探りながら、交配育種もはじめました。いつの日か、都農にしかない独自の品種を交配できるのを夢見て。。。
土地の物語りを伝えられるワインづくりのために
こうしたぶどうを都農の地で育てることにこそ、私たちのワインづくりの原点があります。なぜならワインは地酒であるべきで、その土地の風土「テロワール」を主張するものでありたいと思うからです。ワインは農産物であり、ワイン醸造はぶどう栽培のリズムのなかで行うべきだと、私たちは考えています。
都農にはブドウ栽培の高い技術があります。不可能を可能にした土地を大切にする精神が受け継がれています。その思いをエネルギーにしながら、都農でしか表現できない品種個性が発揮できるに違いない。。。
こうして私たちは、世界を代表する専用品種の栽培をしています。
3.栽培方式を考える
定説にとらわれず、新しい試みに挑む
開園当時、都農ワインの農園ではこれらの専用品種を欧州スタイルの垣根方式で育てていました。それが定説だったからです。しかし私たちは、シャルドネの一部を平棚方式に変えてみました。それは、湿気の多い日本の風土では、風通しをよくする必要があること、枝を垂らすことによって成長点が充実し、枝や葉、果実が充実してくるという考え方です。結果、収穫量が上がり、品質も満足のいくものになっていきました。
地元のぶどう生産者に樹の仕立てを学ぶ
私たちの畑では、すべての園で平棚に仕立で栽培しています。特にシャルドネは収穫量も品質も安定してきました。赤系の品種にも平棚仕立、一文字短梢剪定を採用しています。ワイン用ぶどうは、垣根仕立で栽培する定説に反するものですが、私たちの風土では、平棚仕立が最も良い結果が導けたのです。
それは、新梢を下に垂らすことで、枝先の成長点が充実しやすく、後々展葉してくる葉の充実度合いが良いという点です。葉が充実することで、枝や果実、来年の芽まで充実するということが解りました。栄養成長期の成長点は、次々と細胞分裂が行われ、最も養分が必要とされる部位です。枝を上から下に垂らすことで、光合成した養分が重力に沿って成長点に集まるので、結果として成長点が充実しやすいという考えです。
また、フルーツゾーンが高い位置にあるので、湿度対策にもなります。私たちが試行錯誤して辿りついたこの栽培方法は、地元のぶどう生産者たちが60年前に確率された方法で、生産者のアドバイスをもらいながら確立してきました。
これまでの栽培技術をもとに新たなる挑戦
近年期待している、ピノ・ノワールは、少しずつ畑も増やしています。高温多湿な地域では難しいと言われるピノ・ノワールに、夢を馳せています。赤ワインとしても魅力ですが、瓶内二次発酵によるスパークリングワインの原料としても魅せられる品種です。まさに、多彩なワインづくりができる可能性に満ちたぶどうです。夢は膨らみます。
農薬や化学肥料に頼らない作物づくり。それは土とともに生きる私たちの理想です。私たちのぶどう栽培はその理想に一歩近づいたと思います。都農町がぶどう栽培に不向きだとは、私たちはもう言いたくありません。
1.製造法を考える
熟し具合を見極めて、収穫したらただちに仕込み
見晴らしのいいワイナリーの丘に、ぶどう畑に囲まれて都農ワインの工場はあります。大小20基のステンレスタンクと、フレンチオークの樽が250本。冷却ユニットをはじめラベラーまで、先進の設備が備わっています。10月に新酒の赤とロゼを発売するのを皮きりに、翌年2月に赤のエステートとアイスワイン、3月にはタンク熟成の白、4月末から5月にかけて樽熟成させた白。これがリリースの年間スケジュールです。エステートとは自社農園栽培のぶどうを醸造したワインのことです。
ワイナリーが一番活気づくのは収穫のとき。その日が近づくと、毎日畑ごとにぶどうの糖度を調べ、天気予報をチェックしてタイミングをはかります。ぶどうの熟し具合がピークに達するその日が、決行のとき。朝日が昇らないうちからスタッフ総出で、一斉に摘み取りが始まります。
その年のぶどうを100%生かすワインづくり
大切に手で摘み取ったぶどうは、ただちに工場へ。その日のうちに仕込みにかかります。まず除梗破砕してから酵母を加えて醸し発酵。赤とロゼは発酵後、搾汁機にかけて皮や種を除き、再度発酵させます。白は圧搾後に酵母を加え、果汁だけを低温発酵させます。そして澱引きしてタンクや樽で熟成、最後に精密濾過をして瓶詰めというのが、スタンダードな工程です。
しかしぶどうは毎年でき具合が異なり、同じ年でも畑によって違いがあります。前年のデータがそのまま使えるわけではありません。もとより、私たちはマニュアルどおりのワインづくりを潔しとはせず、そのとき収穫されたぶどうを最高に生かせる醸造方法を検討します。破砕の度合い、搾汁の圧力、醸し発酵の時間。そんな工程のひとつひとつを微妙に調整することで、ワインの生命である香り・味・色は、繊細に変化するのです。さらにはスキンコンタクト、コールドソーク、タンク発酵、樽発酵、樽貯蔵、そしてシュール・リー。最新の設備・機器を使いながらも、つくり手の感や技に左右されることも事実です。醸造家たちの飽くなき探求心を支えてくれるのは、樽の中から聞こえるシュワシュワプツプツという発酵音。胎動にも似たワインのつぶやきに励まされ、ぶどうを100%生かさねばとあらためて思うのです。
2.表現法を考える
スタイルによって変わる色・味・香りのバランス
赤ワインには仕込みのパターンがいろいろあり、色と味、香りのバランスをさまざまに表現することが可能です。
都農ワインの新酒「マスカット・ベリーA」は、尾鈴ぶどうを使って、軽くてフルーティーなスタイルをめざしたワインです。タンニンを引き出さずに色と旨み成分を抽出するために、発酵前に低温で果実を漬けこんでいるのが特徴。鮮やかな色とフレッシュな香りが楽しめます。
一方「エステート」は、自社農園で栽培したマスカット・ベリーAを使い、豊かな果実味と凝縮味が感じられるワインをめざしました。醸し発酵を長めにして、色やタンニンを十分に抽出。9月に仕込んで10月までタンク発酵、11月から冷却処理をして翌年2月、タンニンがまるく感じられるころリリースします。
そして、樽熟成したマスカット・ベリーAを主体に自社農園で育成した専用種カベルネ・ソービニオンとシラーをブレンドして作ったスパークリングワイン「レッド」。あつい夏でも赤ワインを冷やしておいしく飲むことが出来ます。赤ワイン特有の渋みと炭酸の刺激がエキゾチックなハジケル赤。赤のスパークリングワインは、国内では希少です。
3.多彩に表現できる白ワイン
「シャルドネ」
アンウッディド、エステート、アンフィルタードと3種類をリリースし、本格的なシャルドネの展開を始めた2001年は、都農ワイン・シャルドネにとって記念すべき年でした。白ワインの貴公子シャルドネを3種のシリーズに仕立てているワイナリーは、国内では稀です。
ステンレスタンクで低温発酵させ、あくまでもフルーティーに仕上げた「アンウッディド」。オークの樽で発酵・熟成させ、果実味に樽香、複雑味を加えた「エステート」。樽発酵、樽貯蔵したものをそのまま瓶詰めにし、エステートをさらに重厚にした味わいの「アンフィルタード」。フレンチオークのアロマがきいたシャルドネは、手をかけてつくるちょっと贅沢なワインです。樽熟成の間に、乳酸菌によってワイン中のリンゴ酸を乳酸菌に変えるマロラクティック発酵や、アルコール発酵が終えたあとも澱引きせずに旨みを引き出すシュール・リーなどの製法をプラスして、どっしりしたシャルドネの味を引き出しています。 樽はワインにとって大切な容器。材料のオークは産地によって香りが違い、樽だけでもワインの個性が表現できるといわれています。それだけに私たちも樽材の選定にこだわり、大切にメンテナンスしています。けれどもワイン樽の寿命は短く、3~5年。ウイスキー樽が数十年なのに比べたら、とても贅沢な容器です。この樽の中で半年間、2週間ごとにテイスティングし、熟成具合に応じて温度管理をしていきます。撹拌するたびに確かな手応えが伝わってきて、完成に向けての緊張感が高まります。
このようにシャルドネはいろいろな技法で表現することができ、醸造家にとって興味の尽きないぶどうです。
さらに、都農ワインでは、瓶内二次発酵によるスパークリングワイン Hyakuzi(百二)の製造を始めました。これは、シャルドネを発酵させたワインをベースに、さらに酵母を加えて、再発酵させたもの。都農産100%のブランドブランのシャンパンの誕生です。
4.グラッパとリキュールに挑戦
夢は続きます。蒸留酒グラッパとリキュールの製造です。2011年にグラッパの蒸留器を導入しました。グラッパとは、北イタリア地方で、ブドウの絞り粕を再発酵させて蒸留したお酒のこと。都農ワインではキャンベルの絞り粕を再発酵させて、蒸留しグラッパを作っています。かすかな、甘い香りがするグラッパです。
そして、そのグラッパをベースに果実のリキュールの製造にも挑戦しています。都農町は梅や柑橘系の果物の栽培が盛んなところです。その果物をグラッパに漬け込んでリキュールを作るのです。例えば、レモンを漬け込んで、レモンチェロ、梅を漬け込んで梅酒。金柑、日向夏のリキュールだってできます。まだ、まだ都農ワイン物語は、to be continued です!